日本人4人目となったKaggle Notebook Grandmasterが社内に変革の種をまく

― Game Changers 多様な才能がキオクシアに変革を起こす ―

「『記憶』で世界をおもしろくする」を掲げるキオクシアにおいて、本業のみならず、さまざまな経歴、趣味、バックグラウンドをもち、地道であってもメモリ開発の世界に変革をもたらそうと、切磋琢磨を続ける開発者・社員をインタビューする連載コンテンツ。

国際的に高い評価を得るAIコンペティション・コミュニティ「Kaggle*1」に挑戦するための社内サークルを設立、さらにはプログラミング言語の社内普及に尽力しながら、今年、日本人4人目となる Kaggle Notebook Grandmaster*2を獲得した中 真人。次なる目標にKaggle Competition Grandmaster*3を掲げながら、同時にキオクシア社内に変革を起こす人財育成も推進している。

  1. KaggleとはAIの精度を競い合うコンペティションのコミュニティで、2021年12月現在、全世界で850万人が登録している。
  2. Notebook Grandmasterとはプログラムを公開して閲覧者からのupvote(高評価)数を基に得られる称号。
  3. Competition Grandmaster とは作成したAIモデルの精度を競い合いその順位に応じて得られる称号。

未来予測プロジェクトをきっかけにKaggleに出合う

キオクシアの未来は「過去を記録すること」から「未来を予測すること」へとシフトした先にある――。そんなビジョンの具現化に取り組むための未来記憶プロジェクトから2019年、Kaggleサークルが誕生した。サークルの目的は、AI開発ができる人財を社内に育成すること。キオクシアでリソグラフィ工程におけるフォトマスクの開発を担当する中 真人は、機械学習やAIへの興味から参加することになる。

「社内の未来予測プロジェクトに参加して、新規事業の提案か社内改革か、どちらかに挑戦しましょうという話があったんです。悩んだ末、実務にもプラスになりそうな機械学習を学んでみることにしました。そうした時に、プロジェクトリーダーでcSSD技術部の国松さんが、世の中にはKaggleというものがあるから、それに参加するためのサークルをつくらないか、と声をかけてくれたのが全ての始まりです」

世界中のデータサイエンティストを相手に学び、交流し、実力を試せるKaggleに、中はすぐさま熱中し、自分でも驚くほどのめり込んでいったという。会社員として普段の業務に片足を置きながら、世界という大舞台でスキルアップを図る自分試しができるというKaggleの仕組みが、カンフル剤のような刺激となり、自分でも驚くほどの実力を身につけていくことになる。

現在ではサークルを牽引するリーダー格として慕われるだけでなく、この活動での実績から派生して、社内ではさらに所属課内にデータサイエンスグループを設立し、そのテーマ長も務めている。

コロナ禍を情熱と創意工夫で乗り越える

当初は、プログラミング言語のPythonにも機械学習にも、興味はあっても触れたことがなかったというが、Kaggleという世界各国でAI開発に取り組む仲間たちと交流し、競い合うことのできる環境は中の背中を力強く押した。

例えば「これはすごい!」と思ったプログラムの作者に質問を投げると、丁寧に指導してもらえる。あるいは自分が腐心してつくったプログラムに対して、海外の技術者がアドバイスを含めたコメントを寄せてくれる――。そういった交流が、中のやる気をさらに開眼させたのだ。日本にいながらにして、世界の最前線で誰が、どんなスキルをもち、何を開発しているのかを知るきっかけとなり、大いに刺激を受けたという。

一方、サークルについて言えば、世はコロナ禍であり、活動は当初から対面式ではなくリモート形式で行われてきた。だがそれも、マイナス要素にはならなかったという。

「そもそも海外のコンペティションに挑むという取り組みでしたし、我々の拠点も東京、神奈川、三重などに広がっていますので、仲間内で公共の情報を共有して打ち合わせをしたり、レクチャーをしたりといった活動はオンラインでむしろ好都合でした。唯一、難点として浮上したのは、私だけがずっと喋っているとメンバーが眠くなってしまうということ(笑)」

「私だけが話をして、ただそれを聞いているだけだとつまらないだろうと、かつて塾講師をやっていた経験を生かして、みんなと一緒に手を動かす参加型に変えてみました。そうしたら評判が良くて話題になり、始めは4人しかいなかったサークルメンバーもすぐに8人、10人と数を増やし、今では主要メンバーで約30人、見学者を含めて50人くらいの規模まで成長を遂げています」

日本で4人目となるKaggle Notebook Grandmasterに

そんなサークル活動を続けて2年目となる2021年、中が金字塔を打ち立てた。Kaggle Notebook分野での最高称号となるGrandmasterを得たのだ。日本人4人目の快挙であり、世界に約19万人いるKaggleユーザーのなかで18位となる成績を収めた。

「夢として目標に掲げてきたものの、まさかゼロから始めた自分が本当にGrandmasterを獲得できるとは――。憧れの存在に自分がなれるなんて、私も国松さんもまったく想像していませんでした。むしろ勉強のために、社外からGrandmasterを招いて講演してもらおうと話していたくらいですから」

「Grandmasterになったことを知った時には、ちょうどオリンピックが開催されていたこともあって、努力が報われた感じというか、自分の中でメダリストに重なる部分がすごくあって涙しました(笑)」

参加型Python初心者教育でスキルの共有を

KaggleでPythonのスキルを向上させ、またGrandmasterとしての地位を獲得するにまで進化した中。現在は、サークルメンバー以外にも、プログラミングを全く経験したことのない社内の初心者を中心に、参加型のPython初心者講習も行い、スキルの社内還元を図っているという。

「自分もPythonのスキルがゼロだったところから、Kaggleで知識を学んできたわけです。なので、まずは参加型教育という形で課内メンバーに共有することを試みました。その評判が思ったよりも良くて、課や部を超えて口コミで広がっていき、今では300人近くの受講者がいます。都度アンケートを行い、改善点を挙げてもらい、教育自体を受講者と一緒に共創しています。みんなで会社を良くしていこうとモチベーションを共有しながら頑張れていることは、本当にやりがいがあるし、楽しいですね」

中はそう言うと続けて、Kaggle、社内教育ともに、ここまで心血を注いでこれたモチベーションの源泉について次のように語ってくれた。

「リーダーとしての責任感が背中を押してくれました。それと、他人から褒めてもらったことも力になりました。海外のKaggleユーザーが『Beautiful code!』といったふうにコメントしてくれるんです。それに、一生懸命取り組んできた社内でのPython教育も、アンケートを取ってみたら90%以上の満足度で、感謝のコメントも多くありました。モチベーションがさらに上がったと同時に自信もつき、頑張れたのだと思います」

人に喜んでもらえる。褒めてもらえる。だからさらなる努力をして実力をあげる。そんなシンプルでポジティブな循環が生まれたのだ。また、そこから学んで得たものが、本業にも着実にフィードバックされているというのだから、本人も会社もまさにWin-Winの関係ということができるだろう。

「Kaggleのあるコンペティションの上位入賞者の人たちが、こんな戦略を使っていました、というような情報を社内で公表しています。世界最先端の技術にヒントを得て、それを実務に活かせるようになったのは、自分のなかでも大きな変化でした」

「またKaggleサークルをやっていて良かったなと思うのは、社内だけでは絶対会えないような世界の優れた人たちと出会い、交流し、学べることです。そこから学んだことを、学ばせてくれた会社の人たちに感謝とともに伝える、そして本業に生かすというのが、私の大事な使命だと思っています」

“Game Changer”が生まれる文化を創る

Notebook Grandmasterの称号を得た中の次なる目標は、「キオクシア全体でデータサイエンスを普及させながら、KaggleでCompetition Grandmasterになる」ことだという。毎日の積み重ねを大切にしながら、夢をきっと叶えてみせると笑顔を見せる。

また、今後注力していきたいことについて尋ねると、こう答えてくれた。

「私は今、2つの活動を行っています。Kaggleのサークルと、社内でのPythonの初心者講習です。サークルでは世界に通用するAIスキルの高いエキスパートに一緒に育っていく、講習ではPythonは初めてという人たちのベースレベルを上げる、ということをやっています。その2つを一緒に動かしていくと、理系人員の多いキオクシアでプログラミングができる人が増えて、AIプログラミングまでできる人も増えていく。この流れをキオクシアの企業文化として育て、業界をリードする企業にしていきたいと思っています」

中自身も、情熱を注ぎ込んできたサークル活動を通じて、いつしか会社の未来を変えるGame Changerへと成長していった。そしてそうした動きは、社内の他のところでも芽を出しつつあるという。

「未来のためにAIを学びたい人、そしてそれを楽しくできる人財を増やしていきたいですね。そして1人ではできないことも、この会社には楽しみながら一緒にできる仲間がいます。サークルメンバー、Python初心者講習の受講者、みんなで一緒にパワーアップしていくなかで、多くの人たちの記憶に残る製品を世に出していって、世の中を変えていけたらと思っています」

掲載している内容とプロフィールは取材当時のものです(2021年10月)