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グローバル競争を勝ち抜くための秘策
― Game Changers 多様な才能がキオクシアに変革を起こす ―
2021年11月15日
「『記憶』で世界をおもしろくする」を掲げるキオクシアにおいて、本業のみならず、さまざまな経歴、趣味、バックグラウンドをもち、地道であってもメモリ開発の世界に変革をもたらそうと、切磋琢磨を続ける開発者・社員をインタビューする連載コンテンツ。
ゲーム機の画像処理LSI設計を手がけていた檜田和浩は、自身の研究をさらに深化するためスポンサーシップを活用した客員研究員としてマサチューセッツ工科大学へと留学。現在はデータ解析や画像処理など膨大なデータを活用するために使われているメモリを高性能フラッシュメモリに置き換えることをテーマに、新たな付加価値を生み出し「世界にインパクトを与える」べく、研究開発の最前線を牽引している。
寝食も忘れて作った自作レーシングゲーム
ビジネス、研究開発、スポーツに関わらず、その分野を極め、世界一を目指すのであれば、まずは世界というステージで対峙する敵を知ることが欠かせない。まさに「敵を知り、己を知れば……」ということ。その点、キオクシアのメモリ技術研究所でメモリを含むシステムの研究開発を手がける檜田和浩は、エンジニアリングのグローバル基準がいかなるものか、身をもって知っている。というのも、世界中から優秀な研究者がその門戸を叩く、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボに留学した経歴を有しているのだ。
約1年半のアメリカ赴任で得た経験、知見、刺激を、現職のさまざまな場面で最大限に活かし、「『記憶』で世界をおもしろくする」研究開発の最前線を牽引している。まさにメモリ開発という“ゲーム”に変革を起こすべく毎日を過ごすが、「世界にインパクトを与えたい」と志願したMIT赴任よりさかのぼる京都大学での学生時代ですでに、自身の発案とスキルで周囲に“インパクト”を与えたいという意識は芽生えていたようだ。
「小学生ぐらいの頃からゲームに興味があって、簡単なプログラミングをしては家族で遊んでいました。大学生の頃になると、2Dで上下か左右にスクロールするだけのゲームばかりだったのが、スーパーファミコンの『F-ZERO』(ホバーマシンを操作するレースゲーム)のように3次元的な動きが可能になりました。『すごいな』と思っていたら、いつの間にかポリゴンでモデリングして、リアルな3Dの動きができるようになる。そこで自分でも作ってみるべきだなと思ったのです」
学生時代の2年間を費やし、寝食も忘れて開発したという完全オリジナル3Dレーシングゲーム。ポリゴンのデザインもゼロからすべて手がけたという自作ゲームは、1990年代に一世を風靡したレーシングゲーム「リッジレーサー」に近い雰囲気と、檜田本人は振り返る。友人たちや、ゲームファンが集まる当時の電子掲示板(BBS)に公開して広くシェアし、その反応やフィードバックを楽しみにしていたという。まさに世界に向けてデモンストレーションする、つまり自分が起こした“インパクト”の感触を得たいという檜田がもつ生来の気質をここですでに垣間見ることができる。
「世の中にインパクトを与えたい」
「世界で戦える雰囲気」に惹かれて入社した東芝では、2000年から7年間ゲーム機用の画像処理LSIの設計を主に担当。その後MIT留学のチャンスが巡ってくる。
「MITに社内応募する際、『世の中にインパクトを与えるような仕事をしたい』と訴えたことを覚えています。もちろん会社にいても世の中にインパクトは与えられるんですが、そのうえでアプリケーションレベルの研究を僕は進めようとしていました。例えば、新開発のLSIを使うと『こんな画像処理ができます』とか。そういった新しいアプリケーションを世に問い、発信するという意味においてMITのメディアラボは非常に適しています。もちろん超一流の先生や学生が揃っているという点も大きな魅力です。そういった環境で世界にインパクトを与える仕事をしたいというのが狙いでした」
MITメディアラボ時代は、ゲームを自作していた頃のユーザー視点、そして続く画像処理LSIの開発者視点という相対峙する経験から培ったスキルと知見をバックボーンに、さまざまなエンジニアリングの研究課題を具現化・実装していくことで国際色豊かな学生の中にもすぐに溶け込むことができたという。この点において世界と対等に肩を並べる一つの手応えを確実に感じることができた一方で、世界から集まるエリートたちを前に驚いたのはそのスピード感だったという。
「一番ショックを受けたのはスピード感の歴然たる差でした。例えば、学生同士や教授らとアイデアを出して、こういう実験をしたいよねっていうと、翌日にはもう初期実験を行って結果を検証し、次のフェーズを考え始めているというのが彼らの典型的なスピード感でした。(日本での開発と比べて)体感としては10倍以上の差があると感じましたね」
世界と渡り合うキオクシアのポテンシャル
かねてからアプリケーションのさらなる進化にはメモリの応用研究が最重要であると感じていた檜田は、帰国後、メモリの世界へと軸足を移していく。なかでもXL-FLASHは、高速読み出し、書き込みを可能にすることでDRAMとNAND型フラッシュメモリの性能差を埋めるソリューションとして、フラッシュメモリの新しい使い方を提案するものだ。檜田のチームはそれを可能とするコントローラ性能の改善に取り組んでいる。そしてこの開発プロジェクトを進める過程で、檜田はMITで目にした海外の精鋭に負けないキオクシアのポテンシャルの最大化を試みている。
「飛び抜けて優秀な研究者もいますし、(世界と比べても)劣っているっていう感じは全くありません。しかし残念ながら、チームのアウトプットで考えると、スピード感に10倍の差がある。どれだけ優秀な人が優秀なアイデアで研究を進めたとしても、結局スピードで負けてしまうのです」と語る檜田。
「しかし逆にいうと、世界のスピードに近づけていければ、十分に戦えるというのが、僕の持っているイメージです。現在は、開発をリードするポジションにいるので、研究の方向性やマイルストーンを検討しながらこれまで3カ月〜半年かかっていた研究を、例えば1週間といったタイムラインに縮めようとしています」
「必ずしも海外の例がベストではないので、さすがに1日周期で回すようなことはしていませんが、常にどう進めるのが最速のやり方で、どうすると一番リターンが大きくなるのか、そのイメージを常に念頭に置きながら研究を進めていく意識をチームで共有しています。そうすれば必ず世界と渡り合っていけると思います」
常に自分で面白いと思う方向に舵を切って進んできたら、今の場所にたどり着いたという檜田。自作ゲームに始まり興味ある分野を徹底的に追求するマインドは学生時代から変わっていないという。今でも大学時代の恩師に「お前は、変わらず好きなことだけやってるんだな」といわれると檜田は笑って話すが、自身も「大きな変革期を迎えている」と実感するメモリ開発競争において、グローバルな知見を最大限活用し、キオクシアに変革の波を引き起こしているのである。
掲載している内容とプロフィールは取材当時のものです(2021年9月)