薄膜Siチャネル中の固相エピタキシャル成長のリアルタイム・原子スケール分解能観察

2022年11月30日

3次元LSIでは多結晶Siにトランジスタを形成します。このトランジスタの電流の通り道である多結晶Siチャネルの高性能化には、チャネル内の欠陥を減らすことが有効です[1, 2]。このため、欠陥が少ない多結晶Siチャネルを形成するプロセスの確立が重要な課題になっています。この課題解決に向けて我々は、多結晶Si形成の基礎となるアモルファスSi(a-Si)と結晶性Si(c-Si)の界面での結晶成長をリアルタイムで観察する技術を開発しました(図1)。具体的には、従来の電子顕微鏡技術を改良し、温度823Kに加熱した状況下で、a-Si/c-Si界面でSi原子面が一層(厚さ0.31nm)ずつ形成される過程を100ms刻みで観察することに成功しました。この技術によって、結晶化中の欠陥生成有無の判別と、Si原子面の成長速度の抽出が可能になりました。

図1:リアルタイム観察技術のコンセプト図

図2に、a-Si/c-Si界面でのSi原子面の形成素過程の電子顕微鏡像とその模式図を示します。最初にステップと呼ばれる突起部が界面に形成されました(図2、(a2)と(b2))。次に、そのステップが結晶表面を覆うように沿面成長し、原子層1が形成されました。その後、新しいステップが原子層1の上に形成され、沿面成長し、原子層2が形成されました(図2、(a3)と(b3))。この過程は、理想的な固相エピタキシャル成長であり、欠陥の無いSi結晶が形成されていることがわかりました。

図2:a-Si/c-Si界面でのSi原子面の形成素過程

図3に、単一Si結晶粒の特定方向(Si<111>方向)の成長過程を示します。温度823Kで619s(図3、時刻a)まで保持すると、a-SiとSiO2との界面に粒径2.0nmのSi微結晶が形成されました。この微結晶について、この時刻から定点観察を開始しました。時刻a–bでは非常に緩やかな成長でしたが、その後、一定速度(約0.1nm/s)で結晶成長が進展し(図3、時刻b–c)、他の粒と接触する直前から速度が減少しました(図3、時刻c–d)。従来のX線回折やラマン分光を用いた手法では、隣り合う個別の結晶粒の成長を選択的に捉えることができませんでしたが、本技術によって個別の結晶粒での詳細な成長が初めて観察可能になりました。今回開発した観察技術は、Si結晶成長メカニズムの解明、そしてその知見を踏まえた欠陥の少ない多結晶Siチャネルを形成するプロセス技術の開発に活用できます。

図3:単一Si結晶粒の特定方向(Si<111>方向)の成長過程

本研究は、2022年9月に開催された国際会議SSDM(International Conference on Solid State Devices and Materials)にLate News論文として採択され、発表されました[3]

本稿は、文献[3]@2022 Japan Society of Applied Physicsから図面等一部抜粋&再構成したものです。

文献
[1] M. Oda, K. Sakuma, Y. Kamimuta, and M. Saitoh, “Carrier Transport Analysis of High-Performance Poly-Si Nanowire Transistor Fabricated by Advanced SPC with Record-High Electron Mobility,” 2015 IEEE International Electron Devices Meeting, IEDM 2015, 125.
[2] T. Asano, R. Takaishi, M. Oda, K. Sakuma, M. Saitoh, and H. Tanaka, “Individual analysis of inter and intragrain defects in electrically characterized polycrystalline silicon nanowire TFTs by multicomponent dark-field imaging based on nanobeam electron diffraction two-dimensional mapping,” Japanese Journal of Applied Physics, 2018, vol. 57, 04FD20.
[3] M. Tezura, T. Asano, R. Takaishi, M. Tomita, M. Saitoh, and H. Tanaka, ”Real-Time and Atomic-Scale Observation of Local Solid-Phase Epitaxial Growth in Thin Silicon Film,”, 2022 International Conference on Solid State Devices and Materials, SSDM 2022, pp. 309-310.