フラッシュメモリの可能性を追求する―量子、宇宙時代に向けて―

「記憶」を通じた創造的な世界づくり
2023年9月14日

半導体メモリは、様々な最先端の技術分野で必要不可欠なものになっています。キオクシアグループは量子コンピューターや将来の宇宙分野での活用を見据えて、極低温の環境で安定的に動作し、より製品寿命の長いサステナブル(持続可能)なフラッシュメモリの開発を進めています。

膨大なデジタルデータの保存・処理に欠かせないフラッシュメモリが抱える課題

フラッシュメモリ技術の進展

AI、IoT、ビッグデータの活⽤が広がり、日々膨大なデジタルデータが生成されています。これらのデータを保存・処理するデータセンターやサーバーにはSSD(ソリッドステートドライブ)やHDD(ハードディスクドライブ)が使用されています。SSDはHDDに比べてデータの読み書きの速度、消費される電力、装置のサイズ等で優れており、SSDによるHDDの置き換えが進んでいます。SSDに使用されるフラッシュメモリは、メモリセルを積み上げる「高積層化」と、一つのメモリセルに記憶できるデータの量を増やす「多値化」などによって継続的に大容量化が進められてきました。

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極低温の環境で動作するメモリへの期待の高まり

また、近年は量子コンピューターや宇宙分野への応用のために極低温(絶対零度0K=-273.15 ℃に近い低温領域)で動作するメモリへの期待が高まっています。量子コンピューターは液体ヘリウムを用いて冷却した約10mK(0Kをわずかに超える温度)の温度で動作します。量子コンピューターを制御するCPUや、それに接続するメモリやストレージも、極低温で動作することが求められます。さらに将来の宇宙分野においては、人工衛星、惑星探査機、月面基地などで使用されるコンピューターや電子機器も極低温で動作することが求められることが予想されます。一方で、このような期待の高まりに対し、これらの電子機器に使用されるフラッシュメモリの極低温動作については、これまで学会などにおいて報告がなされていませんでした。

キオクシアグループのアプローチ:
極低温の環境で安定動作できるサステナブルなフラッシュメモリの開発

極低温動作によるストレージ性能の向上

キオクシア株式会社(以下、キオクシア)は、3次元フラッシュメモリを77K(液体窒素の温度)で動作させ、さらに極低温動作によりストレージ性能が向上できることを示しました。極低温環境では、フラッシュメモリのデータ保持特性が良くなり、読み出し時のノイズが小さくなります。また、データの書き込み・消去を繰り返すことによる特性の劣化を抑えることができます。

世界で初めてフラッシュメモリの7ビット/セルの動作実証に成功

また極低温環境によるストレージ特性の向上は、多値化技術も飛躍させます。現在量産されているフラッシュメモリでは、多値化は4ビット/セルまでですが、キオクシアは極低温動作を用いることで6ビット/セルの実証、メモリセルの特性を向上できるプロセス技術と組み合わせて7ビット/セルの実証を、世界で初めて行いました。

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サステナブルなメモリ技術

さらに、キオクシアは最新の研究で、フラッシュメモリの動作によるデータ保持特性の劣化を高温の回復アニール(熱処理)を用いて元に戻すことができることを7ビット/セルにおいて実証しています(図1)。

図1:プログラム/消去 10kサイクルと回復アニールを2回行い、77Kで7ビット/セルを実現した例。

パートナーとの共同開発:極低温の冷却システム

キオクシアは、ナガセテクノエンジニアリング株式会社と極低温の冷却システムの共同開発を進めています。メモリモジュールを真空断熱容器内の金属プレートに配置して冷却する仕組みで(図2)、冷却コストを考慮してもビットコストを削減することが可能です(図3)。

図2:ナガセテクノエンジニアリング株式会社と共同開発している極低温冷却システム
図3:フラッシュメモリの極低温動作時の7ビット/セルと、回復アニールによる再利用による将来のビットコストスケーリングの実現イメージ

今後の展望

極低温でのフラッシュメモリの動作は、量子コンピューターや将来の宇宙分野での活用が期待されます。

例えば、量子コンピューターでは、量子ビットと同じ環境、すなわち極低温環境で動作する大容量メモリを置くことで、演算性能の大幅向上が見込めます。宇宙分野では、月面などを想定した広い温度域で、長い寿命で電子機器を動作させることができるようになるでしょう。

さらに、この技術により、キオクシアは従来の高積層化とは異なるアプローチでフラッシュメモリの大容量化を実現し、より製品寿命の長いサステナブルなメモリの開発を進めます。

私たちキオクシアグループは、今後も世界をリードする新しいメモリ技術の開発に取り組み、新しい分野、アプリケーションへの展開の実現を目指します。

ナガセテクノエンジニアリング社よりメッセージ

当社は、長年にわたり極低温関連のビジネスに携わっています。エネルギー・医療関連の超電導応用分野への極低温冷凍機供給、ラボ用極低温システム及び半導体開発用真空極低温プローバーシステム等、幅広く冷却システムを提供してきた実績を誇ります。

このたび、メモリ開発の冷却システムにおいてキオクシア社に協力させて頂いたことを大変光栄に思います。

「極低温環境」という新たなアプローチで新しいメモリの技術開発の進展に貢献し、今後も一緒に取り組んでいきたいと考えています。