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磁壁(Magnetic Domain Wall)メモリは、磁性体ナノワイヤ (NW) を用いた媒体中に微小な磁石の配列を形成して情報を記憶するメモリです。データ情報は微小磁石(磁区)に記憶されます。磁化方向の異なる微小磁石間には磁化のねじれが形成されますが、これを磁壁と呼びます。磁性体ナノワイヤには直列に多連のデータを格納することができ、書込みと読出しは磁性体NW端部で行えるため、1つの磁性体NWには端部だけにアクセス端子を配置すれば良く、高密度に磁性体NWを配列させることで大容量化が可能です[1]。
ただし、磁性体ナノワイヤに磁区を形成する書込み方式として誘導電流磁場書込みを用いているため、ジュール熱による書込みエラーが問題となっていました。本報告では、誘導電流磁場書込み時のエラー発生要因を解明し、信頼性の高い誘導電流磁場書込みが可能な新しい方式である「書込み電流パルス低速度降下方式」を提案します。
図1(a)のように、誘導電流磁場を発生する配線(FL:Field Line)、ホールバー、磁性体NWを有する簡易磁壁デバイスを用いて書込み実験を行いました。FLにパルス電流を流すことで誘導電流磁場が発生し、FL端に近い磁性体NWに互いに反対向きの磁化方向を有する磁区が形成され、同時に磁区間に磁壁が形成されます(図1(b))。その後、弱い外部磁場(Hz)の印加により、磁壁移動を伴いながら磁区が拡大します。
ホールバーでは、磁性体から生じる異常ホール効果による抵抗変化(ホール抵抗変化)を検出します。十分大きな書込み電流による誘導電流磁場発生により磁区(磁壁)形成に成功し、外部磁場による磁区拡大が起こる(磁壁移動を伴う磁化反転が起こる)と、磁壁がホールバー部を横切る際に弱い外部磁界で2段の特有のホール抵抗変化が観測されます(図1(c)緑印)。しかしながら、低い書込み電流により磁区形成に失敗し磁壁が形成されなければ、磁性体NWは一斉に磁化反転するため(図1(d))、大きな外部磁場領域でホール抵抗変化が検出されます(図1(c)赤印)。

Copyright (2024) The Japan Society of Applied Physics
書込み時のパルス電流の降下速度を変化させた場合の書込み特性を評価しました。図2(a)のように、書込みパルス電流(誘導磁場HFL)の降下が急峻な場合、書込みエラーが発生しない正常な書込みが得られる電圧領域は狭い範囲に限定されました。それに対して、書込みパルス電流の降下速度を制御し緩やかに降下させた場合(図2(b))、書込みエラーを生じない正常な書込み電圧領域が拡大することが分かりました。

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上述の現象の要因を探るために、書込み電流通電時の影響を検証しました。図3に、書込み電圧(VFL)を振った場合の、書込み電流(IFL)の時間変化を示します。
VFLが高いと、パルス印加中のIFLの低下が大きいことから、FL部はジュール熱により抵抗が上昇していると考えられます。同時に、FL部近くの磁性体NWも昇温することが考えられます。書込み電流降下を急峻にした場合、書込み磁界(HFL)は急峻に低下しますが、熱拡散は遅いため残熱が残ります。すると、書込みで形成された磁区(磁壁)が熱擾乱で消失し、書込みエラーが発生することが考えられます。
一方、書込み電流降下を制御してなだらかにした場合、磁性体NWの冷却速度と書込み磁界(HFL)の下がる速度の平衡が保たれるため、形成された磁区は消失しにくくなります。このように本提案の書込み電流パルス低速度降下方式は低エラーレートを実現する安定な書込み方式であることを明らかにしました。

Copyright (2024) The Japan Society of Applied Physics
本成果は2024年9月に開催されたSSDM 2024において発表されました。
文献
[1] A. J. Annunziata et al., “Racetrack memory cell array with integrated magnetic tunnel junction readout”, IEDM 2011.
[2] M. Quinsat et al., “Stable Field Writing in Magnetic Domain Wall Memory Devices by Suppression of Thermal Disturbances”, SSDM 2024.