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3次元フラッシュメモリは、市場からの低価格・大容量化の要求に応えるため、さらなる高積層化が必要になります。しかし、高積層化でポリSi(poly-Si)チャネルが長くなることで抵抗が増え、セル電流が不足します。この課題を解決するため、poly-Siチャネルの移動度を改善する技術として、メタルアシスト結晶化(Metal-induced Lateral Crystallization, MILC)の開発が進められています[1][2][3]。
図1(a)はメモリホール内をMILCによって結晶化するプロセスの模式図です。NiSi2の粒をチャネルの上から下に拡散させる際に、MILC現象によって結晶化が進みます。図1(b)はMILC現象を模式的に表したものです。MILC現象では、アモルファスSi(a-Si)内をNiSi2の粒が熱によって拡散し、そのNiSi2が通過した後には結晶Si(c-Si)が生成されます。MILCプロセスでは、a-Siがpoly-Siに変化する前にNiSi2を拡散させることでチャネル全体を結晶化させます。
これまでMILCについて、多くの実験や現象論的な理論計算が行われてきました。しかし、原子スケールでの研究はc-SiとNiSi2の結晶界面(c-Si/NiSi2界面)での検討[5]等にとどまり、NiSi2とa-Siの界面(NiSi2/a-Si界面)を含めた結晶成長の1サイクルを通した全体的なメカニズム解明には至っていませんでした。MILC技術を実用化するには、結晶化効率を十分向上させる必要がありますが、基本的なメカニズムが分かっていなければ、改善方針を立てることができません。そこで第一原理計算により原子スケールおよび全体的なメカニズムを明らかにし、何がMILC現象を律速しているのかを調査しました[4]。
MILCは、複雑な界面やNiSi2中の粒界・不純物など多様な要因が関わる現象と考えられます。しかし、結晶成長の前後でNiSi2自体はほとんど変化しないことから、その中でもNiかSiの原子、あるいはそれらの空孔がNiSi2結晶中を通り抜けることが本質的な要因であると考えられます。そして、拡散種が形成される場所は主にNiSi2結晶中やc-Si/NiSi2界面、NiSi2/a-Si界面の3つの場所なので、結果として図2(a)の6パターンが拡散種の候補となります。
ここで、これら候補が形成されるのに必要なエネルギーを第一原理計算で求め、その結果を図2(b)に図示します。それらの値を比較すると、6パターンの候補のうちNiSi2/a-Si界面付近のNi空孔が最も形成されやすく、そのためMILC現象で最も主要な拡散種となることを世界で初めて明らかにしました。
次に、その形成されたNi空孔がNiSi2中をどのように拡散しているのかを調査しました。図3(a)はNi空孔をもつNiSi2結晶構造の模式図で、Ni空孔を丸点線で表しています。このNi空孔がNi原子Aの位置に移動する場合、複数の拡散経路が考えられます。検討の結果、図3(b)に示すように4つの原子サイトを巡回して移動する複雑な経路が最もエネルギー的に低く、拡散しやすいことを見出しました。
このような複雑な経路で拡散したNi空孔は、最終的にc-Si/NiSi2界面に集まります。その際にNiSi2からNiが抜けることになるため、c-Siの領域が増加します[5]。以上の結果をまとめるとMILC現象の1サイクルの全体像は図4(a)に示した、(1)NiSi2/a-Si界面で形成されたNi空孔が、(2)複雑な経路でNiSi2中を拡散し、(3)最終的にc-Si/NiSi2界面に集まる、という3つのステップで説明できます。このようにMILC現象の1サイクルが分かると、これら3つのステップのエネルギー障壁を比較することで律速過程を特定できます。
第一原理計算で求めた各ステップのエネルギー障壁を、図4(b)にまとめました。その中で、ステップ(2)が最もエネルギー障壁が高く、最も遅いステップであることがわかりました。そしてこの値は、実験から求めた値[6]と一致していることが確認できました。このように、このステップ(2)がMILC現象のボトルネックであることを世界で初めて理論的に特定できました。
基本的なメカニズムが明らかになったので、MILC現象に対する応力の影響が評価できるようになりました。チャネルは3次元フラッシュメモリ内に埋まっているため、周囲から応力がかかります。今回はメモリホールに沿った方向にチャネルが伸び縮みする応力を受けたケースを想定しました。図5にその結果を示します。
横軸はチャネルに対する応力で、負の方向は引張応力、正の方向は圧縮応力と対応しています。縦軸は、Ni空孔拡散に必要なエネルギーの、応力なしの値との差分を表しています。この結果は、引張応力がかかるほど、Ni空孔の拡散に必要なエネルギーは少なくなり、MILC成長速度が大きくなる可能性を示唆しています。この傾向は、これまでの実験による先行研究[7][8]と一致しており、今回明らかにしたメカニズムの妥当性が裏付けられました。
チップの製造過程で、チャネルには応力の他にも様々な外部影響が加わります。このようにメカニズムを明らかにすることで、外部影響がMILC現象にどのような影響を与えるかをシミュレーションで評価できます。今後も、原理原則に基づいたシミュレーションによるプロセス改善の提案を通じて、開発の加速に貢献していきます。
本成果は2024年9月に開催された国際学会SISPAD 2024において発表されました。
文献
[1] H. Miyagawa et. al., “Metal-Assisted Solid-Phase Crystallization Process for Vertical Monocrystalline Si Channel in 3D Flash Memory”, 2019 IEEE International Electron Devices Meeting, pp.650-653.
[2] N. Ishihara et. al., “Highly Scalable Metal Induced Lateral Crystallization (MILC) Techniques for Vertical Si Channel in Ultra-High (> 300 Layers) 3D Flash Memory”, 2023 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits, T7-1.
[3] Haruki Matsuo et. al., “Effects of crystallinity of silicon channels formed by two metal-induced lateral crystallization methods on the cell current distribution in NAND-type 3D flash memory”, Jpn. J. Appl. Phys. 2024, 63, 04SP19.
[4] Y. Ogawa et. al., “Identification of key atomic process of Metal-induced lateral crystallization from First-principles Calculations”, 2024 IEEE International Conference on Simulation of Semiconductor Processes and Devices, 1-3.
[5] J.-S. Ahn et. al., “Effect of MSi2/Si(111) (M = Co, Ni) interface structure on metal induced lateral crystallization”, Thin Solid Films 2013, 542, 426-429.
[6] G. Z. Radnóczi et. al., “Structural characterization of nanostructures grown by Ni metal induced lateral crystallization of amorphous-Si”, J. Appl. Phys. 2016, 119, 065303.
[7] C.-Y. Hou et. al., “Effects of Tensile Stress on Growth of Ni–Metal-Induced Lateral Crystallization of Amorphous Silicon”, Jpn. J. Appl. Phys. 2005, 44, 7327.
[8] S. Y. Huang et. al., “Effect of compressive stress on nickel-induced lateral crystallization of amorphous silicon thin films”, Thin Solid Films 2021, 520, 2984.