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3次元フラッシュメモリの製造では、メモリセル形成のため非常に深い穴(メモリホール)を高精度に加工する必要があります。デバイスの高集積化の進展により、加工する穴もますます深くなり、高精度な形状制御性に加え高い生産性が求められています。本稿ではこれらの要求を実現する、環境にも配慮した新しいガスを用いたドライエッチング技術についてご紹介します。
メモリホールにはデバイス特性のバラつきが少ない円柱形状が求められます。しかし実際には図1に示すように、ドライエッチング加工により、ボーイング、ストライエーション、テーパ形状など、様々な形状異常が生じます[1]。これらの形状異常が出ないように、プラズマの圧力、入力パワー、ガス流量、ウエハ温度などの様々なエッチングパラメータを調整しながら条件の最適化を進めます。一方で、加工する穴が深くなるとエッチング時間が増加し生産性が悪化します。しかしながら、形状異常が起きないように丁寧に加工しながら、生産性も同時に改善していくことは容易ではありません。そこで今回、プロセスの基盤となるエッチングガスに着目し、これまでフラッシュメモリの生産では使われたことがないガス種まで候補範囲を広げ、エッチング速度が速く、形状制御性の高いガスの選定を行いました。
まず、エッチングを速くできるガスの特性に着目しました。エッチングプロセスに用いるプラズマ中では中性ラジカルやイオンが生成されますが、図2に示すように深い穴底のエッチングには指向性の高いイオンの寄与が大きく、どのようなイオン種を用いるかがエッチレートを高くする鍵となります。
ガス選定は次のように進めました。①シミュレーションによる必用イオン種の推定と候補ガス種の選択、②エッチングレートとマスク選択比の比較によるガス種絞り込み、③形状指標達成のための詳細検討、です。イオン1個当たりエッチングされるシリコン原子の数が多ければエッチングレートは高くなるため、まずシミュレーション技術を用いてそのようなイオン種を推測し[2]、それらが生成しやすいガスを6種類候補として選択しました。これら6種類のガスを用いてエッチング評価を行い、図3の青色の領域で示される、エッチングレートとマスク選択比が、従来用いているガスよりも良好な3種類(C3HF5, C4H2F6, C4H4F6)のガスを選択しました。
次にこの3種類のガスについて、形状指標の改善を中心とした詳細な検討を行ったところ、図4に示すようにガスの種類によってマスクの閉塞の仕方に違いがあることが分かりました。マスク閉塞は、エッチング中の反応生成物等によってマスクの間口が塞がってエッチングが停止する現象です。今回、C3HF5、C4H2F6、C4H4F6の順に、分子中に含まれる水素の数が多いガスほど、閉塞が起こりやすいことが分かりました。また、閉塞改善のため、炭素を除去しやすい酸素ガスの比率を多くするとON(SiO2/SiN)積層中間部の寸法(Bow CD)が拡大し、形状が悪化することが分かります。
このように、C3HF5ガスはマスクの閉塞が発生にしにくく、Bow CDも小さくできることが分かりました。また、このマスクが閉塞しにくい特性は、エッチングレートをさらに高くする方向にプラスに作用することが分かりました。図5はプラズマに印加するパワーを変えた時の比較ですが、パワーを高くした場合、既存のガスでは間口の閉塞が進んでしまったのに対して、C3HF5では閉塞が起きずパワーを上げた分エッチングレートが増加する結果が得られました。このようなC3HF5ガスの特性を生かしながら、加工形状の最適化検討を進めて、図6に示すような、既存ガスと比較して高いエッチングレートと良好な形状指標を得ることができ、BiCS FLASH™ generation 8の量産にC3HF5ガスを適用しました。
このC3HF5ガスのGWP(Global Warming Potential:対二酸化炭素(CO2)温暖化能力指数)値は<1と低く[3]、環境面の性能も非常に良好です。3次元フラッシュメモリのエッチング技術では、今回のような新しいガスの探索や開発が重要であり、今後も積極的にガス開発を推進することで、環境に配慮した高い生産性と形状制御性を有するドライエッチング技術の開発を進めていきます。
※C3HF5ガスは関東電化工業(株)製品名KSG-14です。
この成果は国際学会DPS2023で発表しました。