垂直磁化磁性体ナノドットの斜め磁界印加によるスピン軌道トルク磁化反転特性

2023年11月29日

次世代磁気メモリとしてスピン軌道トルク磁気ランダムアクセスメモリ(SOT-MRAM: Spin Orbit Torque Magnetic Random Access Memory)[1]が注目されています。SOT-MRAMはスイッチングに高速なSOT磁化反転現象[2][3]を利用しているため、書き込みの高速化が可能です。また、読み出し時と書き込み時の電流経路が分離されているため、高い書き換え耐性が期待できます。さらに、垂直磁化方式を適用することでセル微細化も可能となります(図1)。本研究では、ナノメートルスケールの磁化特性を計算可能なマイクロマグネティックシミュレーションにSOT項を導入し、磁界印加による垂直磁化ナノドットのSOT磁化反転挙動を解析しました。

図1 垂直磁化方式を適用したSOT-MRAM構成の模式図

垂直磁化SOT磁化反転で一意に磁化方向を決めるためには、書き込み時にSOT電流方向と平行な面内磁界Hxの印加が必要です(図2(a))。SOT電流通電と面内磁界Hx印加を同時に開始し、1ns後にSOT電流通電のみを停止した場合、磁化反転時間の磁界印加時間に対する依存性を調べました(図2(b)(c))。磁界印加時間の増加に伴い磁化反転時間は振動しながら安定化し、磁界印加時間は電流印加時間と同じよりも、長く続ける方が、反転時間が減少する(高速化できる)ことがわかりました。シミュレーションでは3 nsまで磁場を印加していますが、実際は磁化の反転の終了とともに磁場を止めることができるため、総時間は短くなります。

図2(a) シミュレーションのセットアップ
図2(b) 磁化の垂直成分の時間変化
図2(c) 面内磁界印加時間と
SOT磁化反転時間の関係
Copyright (2023) The Japan Society of Applied Physics

しかし、磁化の垂直成分の面内磁界強度依存性を調べた結果、Hxが低いときには磁化が反転するのに対し、高いときには(Hx=160 Oe)磁化が元の方向に戻ってしまう反転不良が発生することが分かりました(図3(a))。そこで、今回我々は磁化反転不良を低減する方法として、面内磁界Hxに加えて垂直磁界Hzをさらに印加する、いわゆる、斜め磁界印加方式を提案しました。磁界強度を一定(H=160 Oe)にした磁界印加の角度依存性を調べた結果、垂直磁界成分Hzを有する斜め磁界印加により、SOT磁化反転不良を低減する挙動が確認できました(図3(b) )。垂直磁界成分Hzの付加によりz軸方向の歳差運動をアシストするトルクが作用し、安定なSOT磁化反転が実現していると考えられます。

(a) Hx依存性
(b) 磁界角度依存性
図3 磁界印加時間に依存したSOT磁化反転挙動
Copyright (2023) The Japan Society of Applied Physics

本研究で検証された斜め磁界印加方式の適用により、高速かつ安定な垂直磁化SOT-MRAM実現が期待されます。

この成果は国際学会SSDM2023で発表されました。

文献
[1] S. Fukami et al., Nat. Nanotech. 11, 621 (2016).
[2] I. M. Miron et al., Nature 476, 189 (2011).
[3] L. Liu et al., Science 336, 555 (2012).