単一パルスで書き換え可能な多値PCM/Selectorメモリセル技術

2023年11月29日

相変化メモリ(Phase change memory, PCM)とセレクタ(Selector)を積層したPCM/Selectorセルを用いたクロスポイントメモリは、大容量で高速な不揮発性メモリとして広く研究開発が進められています。将来、より大容量なメモリを実現するために、メモリセルの多値化が望まれていますが、従来の多値化技術では複数パルスを用いており、書き換え速度の劣化が課題でした。これに対し、今回我々はPCMの組成最適化と電極構造の最適化により、単一パルスで書き換え可能な多値化技術を提案し実証しました。

今回提案した多値化技術のコンセプトを図1に示します。PCMの相変化はセレクタからの発熱により進行します。我々は、従来よりも薄い上部電極(Top electrode, TE)を用いることで放熱を促進し、PCM上層の温度上昇を抑えました。さらに、PCM上層をTeリッチ組成とし高融点(Tm)化することで、PCM下層と上層で相変化のタイミングをずらすことに成功しました。

図1 PCM/Selector積層セル多値化技術のコンセプト[1] ©IEEE 2023

図2にSelectorのしきい値(Vth)と書き込み電圧(Vp)の関係を示します。PCM全体が結晶化した低抵抗状態(Low resistance state, LRS)とアモルファスの高抵抗状態(High resistance state, HRS)の間に、結晶とアモルファスが共存した中間状態(Middle resistance state, MRS)を形成することに成功しました。

図2 Selectorのしきい値(Vth)と書き込み電圧(Vp)の関係[1] ©IEEE 2023

また、単一パルスによりこれら3状態間の遷移が可能であり、従来技術に比べて書き換え速度の劣化がありません(図3)。

図3 単一パルスを用いた、3状態間の書き換え動作の実証[1] ©IEEE 2023

サイクル耐性評価(図4)では、107回の書き換え後も、しきい値変動なく3状態が実現できていることがわかります。これらの結果から、今回示した単一パルス書き換え可能な多値化技術は、書き換え速度の劣化なく大容量化できる将来有望な技術と言えます。

図4 書き込み/消去サイクル耐性評価[1] ©IEEE 2023

この成果は国際学会ESSDERC 2023で発表されました。

文献
[1] Y. Matsuzawa et al., "One-Pulse-Programmable Multi-Level PCM/Selector Cross-Point Memory for 20 nm Half Pitch and Beyond," ESSDERC 2023 - IEEE 53rd European Solid-State Device Research Conference (ESSDERC), Lisbon, Portugal, 2023, pp. 25-28, doi: 10.1109/ESSDERC59256.2023.10268477.