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フラッシュメモリはワードラインを積層し、メモリセルを2次元(2D)から3次元(3D)化することで単位面積当たりの記憶容量の高密度化を実現してきました。フラッシュメモリの高密度化は容量当たりのシリコン面積を減少させることから低コスト化が進み、3DフラッシュメモリはデータセンターやモバイルPC、スマートフォンなど様々なところで普及しています。特にモバイルPCやスマートフォンではバッテリーの電力が限られるため、HDDよりも消費電力の少ないSSDが用いられています。
CPUやSSDのような発熱部品はヒートシンクやファンを用いて排熱していますが、近年のモバイル製品では小型化、実装部品の高密度化が進んでおり、それらを配置するスペースが無く、排熱が問題となっています。3Dフラッシュメモリも動作することで発熱し、特に85℃以上になると安定した動作ができなくなるため、動作速度や性能を落として過熱を抑える仕組みを備えています。一般的にこのような仕組みは「サーマルスロットリング」と呼ばれています[1]。ヒートシンクやファンを使わず、サーマルスロットリングを起こさないようにするには、消費電力が低く、発熱量が小さいSSDが必要です。
3Dフラッシュメモリはワードラインで使われる高い電圧をチップ内のチャージポンプ回路で生成しています。チップ内のチャージポンプ回路の変換効率は数パーセントと非常に低く、多くが熱に変換されています。チャージポンプ回路の代わりに変換効率の高い昇圧回路をパッケージ内に配置する事により、発熱を抑制できます。今回はDC-DCコンバーターを用いた昇圧回路を搭載したパッケージを開発しました(図1)。その結果、実際の動作条件において、消費電力の低減と発熱量の抑制が可能であることがわかりました(図2)。
さらに将来、3Dフラッシュメモリのワードライン層数が1,000層に達した場合、従来の技術と比較して43%もの消費電力を削減できる見込みです。現在の約100層の3Dフラッシュメモリと比べても消費電力は9%低くなります(図3)。消費電力の低減は温度上昇の抑制につながるため、パッケージ内昇圧回路を用いることでサーマルスロットリングの発生を抑制することができます。この成果は、将来の3Dフラッシュメモリにおいて、消費電力、温度上昇を抑制して、サーマルスロットリングの無いSSDを実現するための標準的な技術になると考えています。
文献
[1] Hedan Zhang et al., "SSD Thermal Throttling Prediction Using Improved Fast Prediction Model", 18th IEEE ITHERM Conference, 2019, pp. 1016-1019.
[2] Kazuma Hasegawa et al., “Low Power and Thermal Throttling-less SSD with In-Package Boost Converter for 1000-WL Layer 3D Flash Memory”, 2023 IEEE International Memory Workshop (IMW), 2023