3次元磁性素子作製に向けた原子層堆積技術の開発

2023年7月12日

3次元集積が進むLSIは、半導体のみならず多様な機能性材料を積層・加工することで作られています。HDD(Hard Disk Drive)などの磁気記録技術の基幹材料であり、近年、MRAM(Magnetic RAM)としてLSIへの導入が始まっている金属磁性材料についても3次元集積への適用が検討され始めています。一方で、従来の磁気記録素子とは異なり3次元化されたLSIの構造は複雑であるため、磁性材料の原子層堆積(ALD; atomic layer deposition)技術の開発が望まれます。そこで本研究では、代表的な磁性材料であるコバルト(Co)の白金(Pt)薄膜上へのALDを検討し、その磁気特性を評価しました。(図1)に示す手順によってPt表面で原料ガス分子(Co(PF3)4H)を反応させ、Co薄膜を成膜したところ、従来成膜技術である物理気相成長(PVD; physical vapor deposition)を用いた場合と同様に、膜面垂直方向に磁化が向く状態が安定となる磁気異方性を厚さ1nm程度のCo薄膜に付与することができました(図2)。

図1 ALD装置概要とプロセスシーケンス[2] ((c) 2023 IEEE)
図2 Pt層で挟まれたALD-Co薄膜で観測された膜面垂直方向の磁化[2] ((c) 2023 IEEE)

ALDは比較的低い反応温度(今回は300℃)で実現されますが、他方、原料ガス由来の不純物(リン)がCo中に残留し、磁気特性を劣化させる恐れがありました。この課題は、反応容器から余剰な原料ガスと反応副生成物を追い出すステップ(パージ)における不活性Arガスの圧力を調整して、不純物濃度を効果的に下げることにより解決しました(図3)。

図3 ALD-Co薄膜中残留リン(P)濃度のパージ条件依存性[2] ((c) 2023 IEEE)

さらに、純度を向上させたCo薄膜において磁壁(磁化がそろった領域(磁区)の境界)を電流印加によって動かすことに成功しました(図4)。この現象は3次元化が可能な磁気メモリ(レーストラックメモリ[1])の動作原理として広く研究が行われています。今回の成果は、ALD技術がそのような3次元磁性デバイスの作製に適用できる可能性を実証したものです。

図4 ALD-Co薄膜で観測された電流誘起磁壁移動現象[2] ((c) 2023 IEEE)

この成果は2023年5月に開催された国際会議INTERMAG 2023で発表されました[2]

文献
[1] Stuart S. P. Parkin, Masamitsu Hayashi, Luc Thomas, "Magnetic Domain-Wall Racetrack Memory", Science pp.190-194 (2008).
[2] Masaki Kado, Yoshinori Tokuda, Yasuaki Ootera, Nobuyuki Umetsu, Michael Quinsat, Hiroyuki Fukumizu, and Tsuyoshi Kondo, “Atomic Layer Deposition of Perpendicularly Magnetized Co Layers Showing Current-induced Domain Wall Motion”, IEEE INTERMAG 2023, AS-02 (2023).